●インターネット以前
まだ「IT」ということばができていなかった頃、その種の企業への就職といえば、「技術職」ということでした。つまり純粋に技術者のみが扱う世界であった、ということです。その時代にできたものは、たとえば電話網だったり、携帯電話だったり、インターネットの元となる技術の開発だったり、要するに主にインフラ整備が中心でした。
企業の世界でも「ベンチャー」ということばもなければ、現在のように証券会社やベンチャーキャピタルが小さな企業に出資する、ということもなく、インフラ整備は主に大企業に任されていました。
●IT企業の誕生
インターネットというインフラが整備され、ネットバブルが到来すると数々のIT企業が生まれました。技術を中心として大きくなる企業もあるにはありましたが、すでにその時代はインフラの整備そのものに必要な「難しい技術」はあまり表に出てこなくなり、代わりに「ビジネスモデル」ということばで表現される「やりかた」が利益を生む、という考え方に世の中全体が変わってきました。
技術系企業への就職は今もありますが、現在ではあまり表に出てきません。非常に地味な仕事なので、マスコミもあまり取り上げません。「IT」というキーワードにまつわる仕事の内容の多くは「ビジネス開発」と称したものであり、既存の道具やインフラを組み合わせて、どういうサービスを作るか、ということに重点が置かれるようになりました。
●ビジネスモデル
実際こういう「ビジネスの仕組み」を考えることは技術の世界でこつこつと積み上げるものが必要ではないように見え、ある意味「専門知識がなくても大丈夫」と言うように見えます。もっとありていに言ってしまえば、そのほうが「派手に見えてかっこよく楽な商売」に見えます。
しかしながら、こういった動きとは裏腹に、ネットバブルの大本であった米国では、現在このネットバブルの元となった「ビジネスモデル特許」を否定する動きが出てきています。米国ではゴルフのクラブの振り方などにもこれらの特許が与えられることがある、など、誰が見ても「これが特許か?」というようなものに特許が与えられることがあり、問題となったからです。米国の特許庁は、これらの「どうでもいい特許」の、見直し作業に入っています。
●知財立国
米国という国が本当に強い国として今後も存続していくには、ガラクタに高い値をつける、というようなことは許されないこと、と彼らは考えているからです。特許の中身を問わない「張子の虎」の知財は、知財立国をすることを目指す国としては、内部から自分自身を腐らせる致命的な病気の元になるからです。
なぜか日本ではあまり報道されませんが、ネットバブルを最後に、米国はシリコンバレーもどん底の不況の中にあり、2001年以来、その地域での失業率が7%台後半に上がりきったまま降りてきません。そのぶん、本物の「たしかな技術」が、非常に大きな力を持ってきています。つまり、「専門技術」と呼ぶにふさわしい技術が、本来の力を見せ始めています。
このような米国を中心とした世界の「知財」の流れを視野に入れれば、まともな技術、本来の意味での専門性をちゃんと持った技術者は国の宝としなければなりません。そして、その数は多ければ多いほど良いのです。
●自分の専門性
これから社会に出て就職をする人は、この「自分の専門性」をどこに据えるか、ということをしっかりと考えて自分の行く方向を決めてもらいたいと私は思います。
時代はバブルの時代を通り過ぎ、元に戻りつつあります。うわっついた情報ばかりが跋扈(ばっこ)する時代は終わり、一攫千金のネットバブル長者になれる確率はさらに低くなっています。
風の強い日はブタでも空を飛びました。今、空を飛びたければ自分のちからをためて、自分のちからで空に飛んでいくしかありません。自分の仕事に、この国や世界を作る手ごたえを感じたいのであれば、そのちからをためることに時間とお金を惜しまないこと。すべての仕事の基本というのはそういうものですが、それが次の時代を作っていく礎になるのではないでしょうか?
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