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第55回 インターネットと携帯電話は麻薬のようなもの
 

 

●インターネットとはなにか?

  このところ、私の主な仕事は、IT関連のいろいろなプロジェクトの立案です。IT関連という以上、インターネットは必ずかかわってきます。そこで、これらの立案を一緒にしている人たちと話しているとき、必ず話題になるのは「インターネットとはなにか?」ということです。

  こういう話題が発生する場で、必ず出てくるこたえは「貧者のマスコミ」ということです。放送局を自分で買わなくても(買うお金がなくても)「放送」のようなことができるようになる、ということですね。

  人と人とのコミュニケーションの形態には、「一対一」と「一対多」、そして「多対多」があります。これまでのマスコミは「一対多」しかやってきませんでしたし、会議のような「多対多」を行う場所や、「一対一」は限られた場でしか機能していませんでした。もちろん、情報の方向としても、マスコミは一方的でした。

●孤独をなくす

  ネットは、この「多対多」「一対一」の場を、今までは個人的な場だったものから、公共の場に広げたといえます。「一対一」がなぜ「公共」か、といえば、たとえば、電車の中などの公共な場で、プライベートな場を作れるようになった、ということ言いたいわけで、ちょっと意味は違うところがあるかも知れませんが。

  これを文学的な表現で言いますと、「ネットでつながっている人どうしは、孤独という場がなくなった」ということになるかと思います。つまり、本当に一人のとき、というプライベートがなくなった、という感じです。

●アマチュア無線で既に体験した世界

  インターネットが流行るはるか前、私のような「電気マニア」は、アマチュア無線と言う趣味を持っていた人が大変に多かったのですが、このアマチュア無線も、似たような感じでした。
  毎日毎日、ハンディの無線機を片手に持ち、あるいはクルマの中でクルマ用のトランシーバを持ち歩き、いつも電源が入っている。朝起きてから夜寝るそのときまで「おーい!」と呼べば誰かが応える。こういう環境が、既に30年前から、アマチュア無線という独特な世界ではありました。

  高校生でも、電話口にでることなく、自分の部屋にこもって、人とのコミュニケーションを楽しめる。携帯電話ができるまで、この世界はアマチュア無線の世界くらいしかなかったのです。それが、今はみんな同じ場を手軽に持つようになりました。「携帯電話がなくなる日はこの世の終わり」とさえ思えるのは、この小さな道具が「孤独」という、人間にとって耐え難いストレスを産む状態を、少しでも減らしてくれるからに他なりません。

●孤独は文化を生む

  しかし、さまざまな独創的な創造というものは、昔から孤独のもとに行われていました。孤独というストレスを生む状況は、人間にとって耐え難いからこそ、そのストレスの中から、あたらしいものが生まれてきます。人とのコミュニケーションが絶たれた状況こそが文化を生んできたと言っても言いすぎではないのです。

  私たちは携帯電話やネットという道具を「便利だから」、最初に使い始めたはずです。しかし、今はどうでしょうか?「孤独に耐えられないから」携帯電話を買い、PCをネットに接続するのではないでしょうか?であれば、いつのまにか、私たちはこの「究極のコミュニケーションの道具」という麻薬で、本当は、創造力とか文化とか、そういうものを萎えさせているのではないでしょうか?

●孤独を思い出せ。自分の時間を取り戻せ

  思い出せば、私が高校生のときは、アマチュア無線にはまっていましたけれど、それをやめるきっかけは、大学受験でした。しかし、普通の社会人であれば、そのきっかけがなかなかつかめない。自分で積極的に、ネットを絶ち、携帯電話を持たない時間を持つことが、本当は大切になってきたのではないでしょうか?

  遠隔地にいる人とのコミュニケーションが手軽にとれる、という状況は、大変便利ですが、一方で人生を無駄使いさせる麻薬のような性質もあります。時間やお金をそれに取られてしまって、他のことができなくなるのです。孤独と創造性、という以前の問題として、なにかをじっくりと考えたり感じたりする時間を奪ってしまう。個人対個人のコミュニケーションは、最後に人間に残されたエンターティンメントであり、ある面から見れば麻薬のようなものです。

  私たちは便利なもので失った孤独を、もう一度、積極的にかみしめてみる必要があるのではないかと思います。

 

 
     
   
  ※ここでは、このコラムの著者三田典玄氏が撮影された写真の中から、著者選りすぐりの作品を毎回数点ずつ掲載しています。  
 

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