●便利になったか?
多くの、ITの業種とは関係ない人たちとお話をする機会が多くなりました。それだけ、ITというものも一般に浸透してきた、ということです。
しかし、IT技術の中身を知る人は増えてきても、まだまだその数は多いとはいえません。そして、その多くの人たちが「IT技術で便利になってよかったでしょう?」という問いに、100%のうなずきをくれるかと言うと、そういうことはまずありません。この「ITへの不信感」の源はいったいなんなのでしょうか?
●IT技術とサービス
IT技術で行われることは、もともと人間がやっていた「サービス」であることが多いと思います。つまり、「サービスの機械化」がITという技術を応用して実現されています。「サービス」とは、要するに、もともと人が人に対して行う、コミュニケーションを伴う、有形無形な、なにかを提供する行為です。
ですから、JIS分類でもソフトウエア業は「サービス業」という指定になっていました(現在は情報処理という新しい名前と枠組みができている)。
●本当のサービス提供者
ところで、サービスはもともと人間が人間に対して行うものでした。IT技術を使って、それは、人間が機械にしてもらうものになりました。
そしてその機械の動きを決めるのは「ソフトウエア」です。つまり、ソフトウエアを書く人は、サービスをイメージしてソフトウエアを書く。そういった観点から、サービスを提供しているのは、本当はソフトウエアを開発するプログラマ、ということになります。
「サービス」をただ、「するもの」と「してもらうもの」とだけ考えれば、これで十分です。しかし、もともとサービスは人間対人間で行うものであったため、本当はサービスに到るまでの、サービスをする側とされる側の相互のコミュニケーションが不可欠なものです。つまり、本来の人間どうしであれば「この人からサービスを受けていいものか?」という判断が、たとえば相手の目を見るとか、しぐさを観察するとか、とういうことででき、その結果として、安心してサービスを受ける、というところに、行けた。そういうものだったのです。
●サービスへの不信感
しかし、IT技術は、その技術によるサービスを受ける側に、こういった前段階のコミュニケーションを省き、そのサービスを使うだけのことを要求します。つまり、サービスをされる側とする側の相互の、サービス以前のコミュニケーションが省略されているため、そのサービスへの不信感が生まれても、それを使わざるを得ないのではないでしょうか?
そして、そのサービスの内容が複雑であればあるほど、IT技術によるサービスは不信感を持たれる。さらにそれが「自動車の自動運転」というような自分の命を預けなければならないような性質のものになれば、さらにその不信感は増すのではないでしょうか?。
●コミュニケーションを忘れた結果
私たちIT技術を世の中に広めていく役目を負う人間が、人間対人間のコミュニケーションの大切さを忘れて、「サービス」というものを、あまりに外形だけ見すぎていて、人間そのものへの観察を怠っていたために、不信感を持たれるようにしたシステムしか作れなかった。
最近は、そういうことではないかな、と考え始めています。
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