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第37回 デジタル化されたものとデジタルでできたもの
 

 

●「デジタル一眼レフ」は「デジカメ」ではない?

  最近、デジカメでも特に話題になることの多い「デジタル一眼レフ」をたくさん使うことが多くなってきました。
  趣味にしても仕事にしても、なかなか便利な道具なのですが、ちょっと面白いことに気が付きました。それは、「デジタル一眼レフ」というカメラはデジタル技術をあくまで「脇役」として使っている、ということです。つまり、デジタル化されたクルマをぼくらは「デジタル・カー」というようには呼ばないのと同じように、デジタル化された一眼レフは、「デジカメ」としないほうが良いのではないか、ということです。

●なぜ一眼レフか?

  これは、前にも書いたことですけれど、フィルムの時代の一眼レフカメラは、なぜ一眼レフという形態になったかといえば、「ファインダーで見たままを撮りたい」ということがあったからです。しかし、フィルムはCCDなどの撮像素子とは違い、結局のところ現像し、プリントした後でないと真の撮影結果は得られません。仕方なく、せめてファインダーから覗いたものがなるべくフィルムに焼き付けられる像に近くなるように作ったもの。それが一眼レフというカメラの形態でした。

●「デジカメ」は新しい種類の商品として登場した

  日本のデジカメの最初の機種は1995年に出たCASIOのQV-10という機種でしたが、私も使ってみました。使ってみてはじめてわかったのは、これは「カメラ」ではなく「映像メモ」とでも呼べるような、全く新しいジャンルの映像情報機器だ、ということでした。

  ビデオでもなく、フィルムのカメラでもない、新しい用途を持った、新しい可能性を持つ、面白い商品が登場したな、と思ったものでした。

●新しい商品ではない「デジタル一眼レフ」

  一方、デジタル一眼レフは、カメラメーカーが「フィルムをCCDに置き換えただけ」という位置付けで開発をしたものですから、デジタルでできるはずのことがちゃんと追求されていません。

  まず、QV-10の頃からあった機能である、ライブビューという機能がありません。つまり実際に撮っている写真とファインダーに見えている映像は違う、ということを前提としています。その映像を撮る直前直後の「写るそのままの映像」を、このカメラでは見ることができません。

  カメラをデジタル化したことは、カメラという機器の進化なのでしょうが、デジタル機器の側から見れば、「デジタル一眼レフ」の今のありようは、映像情報機器としての退化と見えてしまいます。

●コンパクト型デジカメの進化

  逆に、最近のコンパクト型のデジカメは、光学ファインダーのないものが増えています。カメラを顔の前に密着させて構えてファインダーをのぞく、というあの写真を撮るスタイルが変わってきたのです。

  たしかに、コンパクト型デジカメの主用途であるスナップ写真などではそのほうが便利な場合が多いでしょう。また、同様に最近のこの種のデジカメは背面にある液晶ディスプレイが大型のものになってきています。これを見ると、コンパクト型のデジカメは、「デジカメ」という新商品として、正常な進化を遂げてきたように思えます。

●道具として、商品として

  最近の「デジカメ」という商品の混乱ぶりを見ると、「これをカメラとしてみてはいけない」という「新商品」という側面を強調した商品がある一方、「カメラとして作られたもの」という側面を強調した商品もあることがわかります。

  道具のデジタル化には「古いものをデジタル化しただけのもの」というものと「デジタル技術によって全く新しい視点で作られたもの」という2種類のものがある、ということです。前者の代表が「デジタル一眼レフ」であり、後者の代表が「コンパクト型デジカメ」なのです。同じジャンルにある、と思われがちなこの2種類の商品は、実は全く違う本質を持ったものなのです。

  あなたは、どちらの道具を必要としているのでしょうか?ちょっとこういうことを考えてみるのも面白いと思います。

 

 

 

 
     
   
  ※ここでは、このコラムの著者三田典玄氏が撮影された写真の中から、著者選りすぐりの作品を毎回数点ずつ掲載しています。  
 


紅い実