◎朝日新聞の一面に載った「セキュリティ」
2004年の正月4日、朝日新聞の朝刊一面にはこんな見出しが出ました。
「ネットの脆弱さに警鐘」国立大研究員が個人情報を公表
思わず眠気も覚め、コンビニでその見出しの新聞を買ってから、すぐに読みました。すると、なんと自称「セキュリティ専門家」であるofficeというハンドル名のハッカーが、11月8日、同人が講師をつとめるセキュリティ技術を研究するサークルの集会で、実際に「コンピュータソフトウエア著作権協会」のサイトに侵入し、そこにある1200人分の個人情報をその集会で公開してしまった、ということでした。
もちろん、協会はこのoffice氏に強硬な抗議を申し入れ、警察も不正アクセス防止法の疑いで調べにかかっている、ということでした。
◎「スカッとする」
この「話題」は正月休みが終了した日本のネットの話題をさらいました。新聞記事の内容は三面記事にもその続きがあり、詳細を伝えており、このoffice氏と新聞記者のインタビューも掲載されました。そのインタビューの中で、office氏は「侵入できると、スカッとする」などの言葉を使い、大変にあぶない人、という印象が非常にしました。
さらに、このoffice氏はすぐに自分のサイトで協会に対する謝罪文を載せ、「申し訳ありませんでした」という一言を載せていましたが、これが発表後ほんの数日で、おそらく自らの手で削除される、という「事件」も起こりました。なんの理由で謝罪文を掲げ、また削除したのか、という発表はなにもなく、不信ばかりが残りました。
◎なにが問題か?
この事件は大きく2つの事柄が混ざっています。
1.欠陥のあるホームページは思いのほか多くあり、問題である。
2.office氏という「ハッカー」は不正アクセス禁止法に触れるかもしれない行為をした。
この2つを混同したり、片方を強調し片方を「たいした問題ではない」と切り捨てるのは、やはり公正さに欠けるでしょう。不正アクセス禁止法もあちこちで話題になるものの、結局現状では「悪法も法」であることに変わりはなく、この法律そのものを問題とするのは、また別のフィールドで行われるべきことです。
◎事件の背景も
実は、私のかつて管理していたサイトもこのoffice氏の訪問を受けたことがあります。
そのさい、彼は「欠陥があるサイトは直せ」という警告をくださいました。ここまでであれば、特に問題のある行動ではないのですが、その後、彼は私に「絶対に直せ。直さないと、おまえのサイトの脆弱性を公開するぞ」と言うのです。
これには私も驚きました。通常の神経を持った人間であれば、こういう行動は取らないはずですが、彼は自分のやっていることが正しいことだと言い張り、後には引きません。正直なところ、「辟易した」というのが感想でした。
彼の態度があまりに「変」なので、私はその指摘を受けた脆弱性を密かに直し、以後の彼からのメールは無視することにしました。まるでストーカーの被害にあっている気分でした。そして、今回の事件は、そういう彼が起こすべくして起こした事件だ、と肌で感じることができます。
◎ネットも人間も
結局ネット上のことであろうと、また、その行動の根拠が正しいものであろうと、そのやり方がおかしければよい結果は生まれない、というごく当たり前なことが、office氏には当たり前のことと思えなかったのでしょう。どのようにしたら、彼のような「人間としてのコミュニケーション能力の極端に低い」人が生まれるのか、ちょっと調べてみたい気にもなりました。
人と人とのコミュニケーションの能力が不足している人にとっては、ネットという便利な道具は凶器にも使えることになります。おいしい料理を作ることもできれば、人殺しだってできる「包丁」という道具も、結局はそれを使う人次第、ということと同じだと思います。
きれいな文章が書ける、とか、人を説得できる話ができる、というようなことではなく、いつも「相手のことを考えてコミュニケーションができるかどうか?」という人間と人間のかかわりあいかたこそが、本当に培うべきコミュニケーションのスキルと言えます。
そして、ネットという道具がこれだけ発達した時代にあっては、このスキルが前にも増して大切なものになっている、ということをよく覚えておきましょう。
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