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第14回 「グリッド」の行方
 

 

◎グリッドとは?

 最近、新しいIT技術のキーワードとして注目されているグリッドとはどんなものでしょうか?

  「格子」のことをグリッドと言います。また、この格子のようなかたちで張り巡らされている「電力の送電網」も、これに倣って「グリッド」と呼ばれています。
 簡単に言えばこの格子状に張り巡らされた小さなコンピュータのつながりによって、大きなコンピュータでしかできなかったような、非常に強力なCPUパワーの必要な演算を行ってしまおう、という技術がグリッドです。最近でもIBMやヒューレット・パッカードなどの会社のCEOがグリッド技術をそのインタビューでとりあげ、「これからのビジネス向けコンピューティングはグリッドだ!」というようなことを言ったとのことで、話題になっていました。

◎余る?CPUパワー

 私たちが使っているPCは、その多くの時間「待って」います。キーボードをいかに速く打っていても、キーを押す間にCPUはいくつもの「仕事」をこなすことができるくらい、CPUの力は余っています。この「空き時間」をネットワーク側から寸借する仕組みを作り、その仕組みのもとで大規模な計算などをこなしてしまおう、というのがグリッドという仕組みです。

 現在国際標準が策定されており、次世代のコンピュータには不可欠の機能、とさえ言われています。アイデアそのものは1990年代当初からあったものですが、現在は、遠い星からの信号を意味のあるものとして解釈できるか、という「未知の生物探し」をするSETI@homeなどのシステムが有名です。日本でも、バイオ分野で必要な多大な計算をグリッドで行うべく、標準化作業などを行っている「バイオグリッド・プロジェクト」があります。

◎グリッドの問題点

 しかしながら、グリッドの現状はいま一つ盛り上がりに欠けます。また、セキュリティ的な視点からも、多くの問題点が指摘されています。

1.需要が見えない

 グリッドの問題点はまず第一に、「需要があるのか?」ということです。
 誰でも強大なコンピューティングパワーを手に入れられる、とは言うものの、「それをなにに使うのか?」ということについては、実は未知数どころか、いまだにそれを必要とする決定的なアプリケーションがみつかっていません。強いて上げればバイオ分野や理論物理学などの分野でしょうが、彼らがこの仕組みを独占するためにだけ、この仕組みを動かすわけにはいかないでしょう。なにかユーザに多大なメリットをもたらすキラー・アプリケーションがひるようですが、現状はそれがありません。おそらく、これがここに掲げるグリッドが広まらない原因の一番大きなものと思われます。

2.セキュリティ対策が確立していない

 第二にセキュリティの問題です。
 この仕組みを悪用して、企業のコンピュータに入り込むようなことをされたら、それこそたまったものではありません。この仕組みがみなが納得できるほど強固であることの証明がない限りは、企業ユーザはグリッドを使うことをためらい続けると思われます

3.暗号クライシスの対策がない

 第三に個人がこの強大なコンピューティングパワーを持ったとき、それを、暗号解読などの用途に使うことはないのだろうか?ということです。
 世界中のだれか1人でも暗号解読にこの仕組みを使うことがあったら、大変なことになります。現在使われている暗号は、そのほとんどが「スーパーコンピュータでも解読に数十万年かかる」といったものばかりです。であれば、スーパーコンピュータ以上の能力を持ったコンピュータが現れると、それは数十秒で解かれる可能性だってある、ということです。
 そして、こういう用途にとても適した「分散コンピューティング環境」こそ、このグリッドなのです。悪意のある第三者が暗号解読のためにこの仕組みを使うと、たとえば、あなたが持っているクレジットカードや銀行カードの番号をちらっと見られただけで、あなたの口座からお金がごっそりなくなる、ということだってありえないことではないのです。

4.ライトサイジングの時代はCPUが余らない

 第四に、世の中は現状景気が良くありません。つまり、過剰なコンピューティングパワーは経済的な意味で嫌われています。「ライトサイジング」ということばに代表されるように、「ちょうど良い大きさ」のコンピュータが求められている時代です。
 こういった時代に「余ったコンピュータパワー」なるものが減るのは確実です。ということは、グリッドがいくらはびこったとしても、またそれが十分な能力を発揮したとしても、たいした能力を発揮できない場合が考えられます。
 たとえば、CPUの省電力化を計る場合、CPUが休んでいる時間は電力を食わないようにする工夫などが入っている場合は、「キーボード入力待ち時間」の数十ミリ秒のあいだの一瞬でも無駄にせず、その短い時間を「省電力モード」にするかも知れません。その時間はCPUが休む、という選択をしたとたんに、1ミリ秒たりともCPU時間が余らなくなる可能性もあります

◎グリッドは広まらない?

 現状、どの疑問にも明確に答えられていない、というのがグリッドという最先端IT技術の現状です。そのため、私は当分はグリッドは広まらないと思えてなりません。みなさんはどう思われるでしょうか?