インターネット実務検定協会 インターネット実務検定協会ロゴ
ホームに戻る 協会の概要 Q&A コラム リンク お問い合わせ サイトマップ 資料請求
 
   
  パソネタ3分クッキング  
   
     
 
第61回 キーワードを追うな
 

 

●Web2.0

  「Web2.0」というキーワードがあります。
  どこのサイトを見ても「まだ定義が曖昧だが」という書き出しで、全く同じ解説が腐るほど載っています。曰く「RSSなどの新技術を基にした、新しい世代のWeb関連技術の総称」みたいな感じです。正直言って、ネット上で調べて、これほど多くの類似の解説が載っているキーワードもそう多くはない感じがします。しかし、その実態は、たかだか「次の世代のWebのこと」以上のお話は出てきません。非常に漠然とした解説ばかりです。しかしながら、詳細な解説はしてもあまり意味がないように思います。なぜなら、詳細はどこかの「規格」などで決められたものではないので、もともと無いのですから。

●コンピュータ業界とキーワード

  インターネットがこれだけ普及するはるか前からコンピュータの業界は「キーワード」を使ってその流れが作られてきました。1980年代などは「マルチメディア」「メディア・ミックス」などのキーワードが非常に多く語られ、1990年代後半になると「データ通信ネットワーク」と「コンピュータ」を1つにして「IT(Information Technology)」という単語も幅をきかせて、現在に至っています。

  私たちは、日々忙しい毎日を送っていることが多いことでしょう。ですから、自分の周りの物事を「簡潔に」教えてくれるメディアを好みます。コンピュータなどは、いまこそ一般に認知がこれだけ広がりましたが、1980年代以前となると「それなに?」と言われることも多く、また「情報」も、非常に軽視されがちでした。ですから、コンピュータがなぜ必要か、データネットワークがあるとどんなことができるのか、ということについて、多くの解説をしないと、「それ」をわかってもらえない、という時期が非常に長くあったのです。そのため、コンピュータの業界は特に「キーワード」に頼って、その意を世に伝えてきた、という事情があります。

●キーワードの盲点

  わかりにくいものをわかりやすくする。複雑なものを単純にして見せる。そのためにマスコミなどで使われる道具が「キーワード」です。しかし、キーワードはあまりに短いため、そのコトバ一つでは、当然のことながら、複雑なものは伝わりにくくなります。しかし、世の中がいろいろな意味で複雑化していることは、論を待ちません。非常に優れたジャーナリストでも、今はキーワード1つですべてを語るようなやり方が通用しなくなってきました。

  そこで起きることは、従来の手法で「キーワードを読み解く」などのやりかたをしたとき、結果としてキーワードの受け手に伝わるものが、キーワードの送り手が考えたものと違っていたりする、ということです。つまり、キーワードで伝えようとしたものが伝わらない。結果として物事を単純化してわかりやすく受け手に受け取られたそれが「ウソ」になってしまう。あるいは詳細を欠いているために「ウソを多く含む」ということになってしまう。

●Web2.0というキーワード

  Web2.0というキーワードは、これまでのWebのテクノロジーをあらためて「Web1.0」とか「Web1.5」という名称で呼んでおいてから、新しい世代のWebのテクノロジーを総称して「Web2.0」と呼ぶ、というやリ方です。つまり「これからは新しい時代が来るのだ。だから、古いものと新しいものを分けるのだ(そして古いものを捨てて行き、新しいものに乗り換えるのだ)」という意図がその裏にあります。

  私がこれを非常に乱暴で粗雑なキーワードだと思うのは、その名称がなにかの本質を表現していないで、単なる世代の違いを言っているに過ぎない、というところにあります。これなら「次世代Web」と言ってもいいような中身です。「次世代」ということばが使い古されて手垢がつきすぎたために、これの言い直しをしているような感じのキーワードです。

  おそらく、こういう「横着なキーワード」が語られる裏には、ITのテクノロジーの停滞は世界的に覆うべくもない、というこの現状があるように私には思えます。さらに、IT関連のジャーナリズムにあってはキーワードを追って物事をわかりやすく解説したつもりになる、という体質そのものが、いま時代とともに古くなってきているのだ、ということに気がつかない、ということもあるのではないでしょうか?

●キーワードの現状

  いまや新しい単語が出てきたら、Googleをはじめとした検索エンジンを利用して、現場の人間の書いているblogや、Wikipediaをはじめ、さまざまなサイトでの解説が瞬時に見られます。詳細だって必要であればちゃんと教えてくれます。つまり、キーワードはなにかをわかりやすくするために必要なものではなく、いまやインデックスの項目名に過ぎません。

  かつてのジャーナリズムでは、いろいろな状況や事柄、モノの性質を1つのキーワードで簡略化して「言い当てる」という能力が、ジャーナリストの個性とか能力を象徴していました。しかし、いまやジャーナリズムそのものが、ネットの出現によって変わってきています。
  マスコミが世論などのイニシアチブを取って世の中をリードする存在ではなくなってきたのです。笛吹きが笛を吹いても、踊ってくれるのは子供だましに乗せられる世代の小学生の、それも低学年ばかり、という現状です。キーワードの神通力が衰えたこの時代に、さらにキーワードらしきものを作ろうとすると、単なる世代の違いだけを漠然と言うだけの「Web2.0」などという、あやふやなキーワードを持ってくる以外なかった、という事実が、まさに現状のマスコミを象徴しているように、私には思えます。

●必要なキーワードとは

  いま、私たちが欲しいのは検索エンジンを使うために必要な「インデックス」であり、そのために必要な正確なキーワードです。とらえきれない「なにか」を表現しているつもりであったり、なにかを解説した気になっている、というような、古い世代のジャーナリストの自己満足だけのために作られた、あやふやでどうでもいい「キーワード」ではないのです。

  そういう意味で、マスコミから見れば、「検索エンジン」は、実は新しい文化そのものであり、現在あるマスコミを有無を言わさずに変質させる、大きな勢力なのではないでしょうか?そして、文化を変えるほどの検索エンジンの必要性を早い時期に認識し具体化したGoogleという会社の人たちの底知れぬ思惟の深さと、いまだそれについていっていないマスコミの現状が、この粗雑な「Web2.0」というキーワードの存在から見通せるのではないでしょうか?

 

 
     
   
  ※ここでは、このコラムの著者三田典玄氏が撮影された写真の中から、著者選りすぐりの作品を毎回数点ずつ掲載しています。  
 

写真61