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第52回 独創的研究はどこで生まれるか
 

 

●11年前の西澤氏のことば

  1994年、今から11年前に行われた現首都大学東京の学長である西澤潤一氏に対してのインタビュー記事がここにあります。
  西澤氏はPINダイオードの開発研究など、多くの半導体分野での世界的な権威です。研究とはどうしたらよいか、ということを熟知した西澤氏のことばは、やはり今にも響いてくるものがあり、再度読み返してみて、私は非常に感銘を受けました。

  「先行指標である欧米の基礎研究の成果の使用が閉じられ、日本が製造分野で得意としていた領域はNIES諸国にとって代わられる、という挟み撃ちのような情勢です」

  西澤氏のこの一言の通りに、今、日本はなっています。ということは、西澤氏の11年前の警告は、日本の舵取りをする人たちに届いていなかったのでしょう。日本は基礎研究分野では大きく欧米に引き離されているばかりではなく、1950,60年代よりもさらに厳しい「知的財産」の「縛り」を欧米から受けているため、日本はそれまでの高度成長を支えてきた「製造技術」「応用技術」以前の「基礎研究」のところで、大変に苦労しています。さらに、製造ということに関しては、すでに中国、韓国、インドといった、当時NIESと称していたアジア諸国に市場を取られているのが現状です。
  ここ数年内に中国や欧米諸国に旅行をした人であればわかると思いますが、どこでも中国製品はあふれていて、ビデオ、テレビといったハイテク商品で「MADE IN JAPAN」を見ることができるのはデジタルカメラくらいのものです。

●日本では独創的研究者が育たない

  そして、西澤氏は研究者の問題を指摘し、このままでは日本の基礎研究分野は衰退する、と言っています。

「いま出てきている問題とは、大学に入ってくる学生の頭脳が、研究者としては使い物にならないタイプが増加してしまっている点です」
「学生の頭があまりにも受験のために特化してしまって、ものごとを順を追って追求していく思考経路が破壊されているような学生もいるのです」

西澤氏はこうも指摘しています。

「人がやっていないことに挑む、ということは、実に孤独なことです。独創は孤独の苦しさ、寂しさに耐えられる人にのみ芽生え、育てられるものなのです」

  独創的と言われる、ということは、言い換えれば他人と同じことをしないこと、ということになります。自分の中できちんとした確信があって、それを他の人にも十分の説明できる表現力があって、そして、はじめてその「独創」が世の中に認知されます。研究でもなんでも同じですが、独創は孤独の中からしか産まれません

  前回も書いた「おまえは雰囲気を読んでいない」人は、ひょっとすると「独創的」なのかも知れない、ということでもあります。
  逆に言えばそのことばは人の持つ独創を殺すために発せられている、と言ってもいいでしょう。私はそのことばに不快感を覚える、と書きましたが、いま思えば、それはこういうところに不快感を覚えたからに他なりません。

●日本の科学と技術の行方

  西澤氏のこれらの指摘を総合すると、結論はこうなってしまいます。

「日本の技術力は、はっきりいうと、あと十年や十五年は現在のような世界でも一級のレベルを保つでしょうが、その先は非常に危ういでしょう」

  これも、11年前の西澤氏のことばからの引用です。私もまったくその通りだと思います。そして、西澤氏のこのことばからすでに11年が、いま、経過しているのです。そしてまた、今、日本のの研究や技術は、西澤氏の言う通りになっているのを見るのは寂しい限りです。

 

 
     
   
  ※ここでは、このコラムの著者三田典玄氏が撮影された写真の中から、著者選りすぐりの作品を毎回数点ずつ掲載しています。  
 

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