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第7回 バイオとITのはなし
 

 

◎8月を襲ったワーム

◎バイオ研究の世界

最近は仕事でバイオの研究所にいます。
そこでバイオの研究者とお話をする機会も多くなりました。もちろん、私はIT側の人間として来ているわけですから、専門はまるで違うわけです。

今回はIT側から見たバイオ研究の今についてお話しましょう。

◎バイオインフォマティクスとシステム(ズ)バイオロジー

バイオ関連、特に最近IT技術をフルに使って研究をする分野を「バイオインフォマティクス」と言います。この分野ではバイオ研究で必要なコンピュータ環境を作る、というのがその研究や開発の要になります。

また、さらに一歩踏み込んで「ITの研究とバイオの研究の融合」をめざし、IT的な視点や手法をバイオ研究に応用し、バイオの研究をより深くしていくことを目的にできた分野が「システムバイオロジー」です。
日本では「システムバイオロジー」と言いますが、これは日本の「北野共生システムプロジェクト」の北野氏が中心になって作った学問分野です。

これに対抗して、米国では「システムズバイオロジー」という分野ができていますが、やっていることはどちらも同じようなものです。

◎バイオはお金になりません

また、バイオの研究は、ごく一部の実用になる研究以外は、ITの研究とは違い、ほとんど100%が政府の予算など、もともとそれ自身が利益を生むことを期待されていないお金でまかなわれています。
ある意味、純粋な基礎研究がほとんどなので、これは当たり前の事と言えます。

バイオ系でビジネスをする場合は、これらの研究の環境を整えたりするサービスや、研究所で使われる測定機器などを売る、というのがビジネスのほとんどを占めます。よく言われているように「新しいたんぱく質の発見で新しい医療が云々」というような「あらたなビジネス」が、直接その研究から生まれることはほとんどありません。実際にそういうレベルに達している研究もないわけではありませんが、実際に人間や植物などにそれが適用される場合、数年間にわたる各方面からの試験で、人間の生体や環境に異常を起こさないかどうかを確かめてから製品にする、という必要がありますから、このあたりの投資も半端なものではすみません。

つまり、よほどお金になることが予想される研究でないと、こういった投資もできない、というのが普通です。
ですから、大きなお金を必要とするような基礎研究は政府の予算などがあてにされて当然、と言えます。

◎バイオの世界はITと違う

バイオの世界は、そういわけで研究者主導の世界であるばかりではなく、研究者がある意味好き勝手な興味を追っている世界とも言えます。もともと学問というのはそういうものでなければいけませんので、それが悪い、ということではないのですが。

翻って、ITの世界では「効率」は至上命題です。
また1から人間が作ったものなので、勉強さえすれば各分野はそれなりにつながりがあり、その間に隙間がありません。つまり、きちっと構築されている論理世界があります。
たとえば、通信の技術を勉強すれば、ハードウエアの勉強がをしなければならず、ハードウエアの勉強をすれば、メモリシステムやメモリ管理の勉強も考慮する必要がある、というように、みんなつながっています。

しかし、バイオの世界は自然科学ですから、ある研究者の研究が他の研究者の研究につながっている、ということはあまりなかったりします。
そして、その間には、多くのまだされていない研究があって、はじめてつながる「かもしれない」、という程度のつながりしかありません。

全体のシステム化がされていないばかりではなく、研究者全員がほとんどばらばら、と言って良いと思います。あえて言えば、バイオの研究者はお互いに広い荒野のあちこちで好き勝手なことをしているように、ITの研究者からは見えてしまいます。ある意味うらやましくもあり、また、ある意味「あんなゴクツブシどもはいなくなれ」的な感情も出てきたりするくらい、文化が違います。

◎バイオ研究者のITへの片想い

最近のバイオ関連の学会や研究発表会に赴くと、必ずといって良いほど、その総括的なお話の中で、必ず「これからのバイオ研究ではIT技術をなんとかして駆使しないと、データの量が増え、整理ができなくなり、やがて人間が理解不可能な領域が訪れる」というお話をよく聞きます。
さらに、システム(ズ)バイオロジーなどの分野からは、「生体とはシステムである」という認識から出発しますので、生体内で起こっていることの構造の解明や、その先にあるシミュレーションをコンピュータで行う、という試みも考えています。

また別の面として米国で成功したバイオベンチャー企業「セレラ社」を横目で眺めているため、とも言えます。セレラ社はクラスタリング技術を使った多数のコンピュータを使って人間の遺伝子の解析を行い、これに成功し、このデータをいち早くバイオ研究者に売ることで、会社を成功させました。

◎片想いがまだ片想いのままなのは

バイオ側ではITとの融合を切望している研究者が非常に多いのですが、逆に、ITからバイオへは「まぁ、そこまで言うんだったら、行ってやるか」とう程度の認識しかありません。なぜかと言うと、予算規模があまりに限られているバイオの世界ではまだ製薬会社くらいしか資本の大きな企業がなく、簡単に言えば「バイオはお金にならない」からです。

実際、ITはあらゆる分野に浸透しており、なにもバイオをわざわざ相手にしなくても、なんとかなる、という場合が多いからです。

◎バイオテロ対策予算は6兆円

米国ではこの8月、ブッシュ大統領がバイオテロ対策費用として日本円で6兆円にものぼる国家予算を用意した、とアナウンスしました。そのため、バイオ分野の企業の株が跳ね上がり、いままでバイオには見向きもしなかったIT系の大企業さえも、続々とこの国家予算の獲得を目指して、バイオの分野に入ってきました。そのため、テロ対策に使えるバイオ研究者や技術者はいま米国では引っ張りだこ状態です。

私も昨年米国に半年ほどいましたが、かの国ではテロの恐怖がことあるごとにマスコミの話題に載ります。テロへの備え、というのは国民あげての大課題と認識されています。そのため、今まであった数々の「自由」もかなり制限されていますが、多くの米国に住む人たちは、文句も言わないことが普通になってきています。

いずれにしてもこの関係で米国では「バイオテロ対策予算」が、バイオの業界を潤しつつある、というのが現状であり、そのために、ITとバイオの統合も、他の国よりもより強力に進められると考えられます。

バイオとITの片想いの関係は、日本ではまだまだ解消されるにはほど遠い、というのが現状です。