少し概念的なことを書いてみたい。能も歌舞伎も"芸能"なわけで、クラブミュージックもショートムービーもアニメも芸能だと言ってしまえる。つまり、ブロードバンド(BB)コンテンツの対象になるすべてのジャンルは芸能という言葉で括れる。
芸能の個々のジャンルは常にシーンと一緒に推移している。音楽誌などのメディアがあり、ファンクラブなどのコミュニティがあり、ランキングがあり批評がありイベントがあって、それらが複合してシーンを形作る。
その昔、シーンにキャッチアップするには、リアルタイムで動向を追いかけていなければならなかった。メディアに目を通 し、イベントに行き、コミュニティの仲間と最新情報を交換する。時間が経ってシーンが変化したり収束してしまうと、関係要素は陰も形もなくなり、「リアルタイムで勢いがあった頃」を正確に把握するのが不可能になった。
ブロードバンドの実体ができあがりつつある現在、これと対比的な「シーンが当時のまま保管されている状況」が生まれつつある。
現在、アニメ界では「SoulTaker」のサブキャラクター中原小麦をメインに据えた「ナースウィッチ小麦ちゃん・マジカルて」の周辺がやたらとにぎやかだ。ファンページが無数に立ち上がり、MADなどのパロディが制作され、掲示板で情報交換が行われている。これらによって成立している小麦ちゃんシーンは、おそらく1年経っても2年経ってもある程度はウェブ空間に残っているだろう。リンク切れが起こるのは仕方がないが、キャッシュでたどれるケースもある。
ここに足りないのは当該シーンの大元となるコンテンツだけ。仮に著作権を持っているタツノコプロが、動画モノ音モノのコンテンツをこの状況の中でしっかり配信すれば、後から遅れてやってきたファンもシーンのリアルタイム感を十分に味わうことができる。
これはビデオ録画で言うところのタイムシフト機能(リアルタイム放送をずらして見られる機能)に近い。すべての芸能はBBによってシーンのシフト機能を持つ可能性があると考えてよい。
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